TSUMATABI SUPPORTER妻旅サポーター

TSUMATABI SUPPORTER 08
TORU ISHIZUKA

妻旅サポーター:08 石塚 徹さん
サポーターテーマ:生態学

石塚 徹さん
万座の自然を切り拓き、
未来へとつなぐ館長の夢。

2018年5月、日本有数の高山温泉地・万座エリアに新たな目玉スポットとして誕生した「万座しぜん情報館」。万座・草津白根の自然の面白さや大切さを伝える環境省の自然案内・展示施設です。その運営の中心的な役割を担うのが、館長の石塚徹さんです。長年にわたり鳥類の生態を研究し、自然ガイドとしての経験も豊富な石塚さん。万座の環境に興味を持った理由や情報館運営への想い、そして嬬恋村の自然の未来など、初代館長の胸の内に迫りました。

自然の神秘に魅せられて

私が生まれたのは神奈川県の逗子市、海と山に囲まれた自然豊かな場所で育ちました。その頃から好奇心の大きさは人一倍で、絵に描いたような昆虫少年でしたね。大学では生態学の研究室に入り、クロツグミという鳥の調査に明け暮れる日々。一度は高校の生物教師として働くものの、続けていた鳥の研究がさらに面白くなり、転職。森のガイドをしながら論文を書いたり、研究所で働きながら本を執筆したりと、ますます深く鳥の世界にのめり込んでいきました。

万座しぜん情報館の館長になったきっかけは、軽井沢を拠点に研究をしていた際、たまたま環境省から公募が出ていることを妻から教えてもらったんです。

万座に近い浅間山で調査を行っていたにも関わらず、万座のことはまったくと言っていいほど知らなかった当時。しかしちょっと調べてみただけでも、浅間山にはいないサンショウウオや、雪国を象徴する動植物が数多くいます。峠をひとつ越えただけなのに、太平洋側の気候・生態系から日本海側のそれへと移り変わる驚きがある嬬恋村の北の秘境。これは面白そうだと思い、飛び込んでみようと決心しました。そうして館長になったのが2018年のこと。教師や研究職の経験をもとに、万座らしさを活かした施設づくりにのびのびとチャレンジしています。それこそ少年時代に戻ったような気持ちです。周りの仲間からも「水を得た魚のようだね」なんて言われているほどですね。



童心に返る秘境ツアー

いくつもの自然条件が奇跡的に重なり、多様な一面を見せてくれるのが万座の魅力です。しかしこれまでほとんど調査されてこなかった秘境。奥深くに足を踏み入れてみたいと思った私は「わくわく万探(まんたん)ツアー」という企画に全力を注いでいます。

私がメインのガイド役となって万座を探求するこのツアーは、ただ歩いて見たものを解説するだけのありふれたものではありません。さながら「万座自然調査隊」の一員として楽しめるような、エンターテイメント性のある企画を毎回オリジナルで考えています。卵を産むために川を遡上するサンショウウオを、沢登りして探しに行ったり。野鳥の繁殖期には、夜明け前の3時半に集合し、20種類もの鳥たちの大コーラスを聴きに行ったり。このツアーで万座の自然に親しんでもらい、自然環境を守ることを大切に思ってもらえるようなしくみを作ったんです。

準備にもかなりの手間ひまをかけています。ちょうど1年前の同じ時期にツアー候補地の下見をし、自然の状態を把握しておくことでツアーに必要な情報収集に努めます。また、自然が好きな方には出し惜しみせずにとことんおもてなしをすることも心がけています。おかげさまでツアーは毎回好評です。ご夫婦で参加される方々も多いのですが、皆さん子どもの頃に戻ったかのように楽しまれています。「昔よくやったよな」と、ご主人が少年のようになって沢を登ったり池に入ったり。その姿を見た奥さまも一緒になって自然を満喫。普段とは異なる大自然の中だからこそ、ついつい夢中で泥だらけになってしまうんですよね。夫婦でそんな非日常の共通体験を思いっきり楽しんでほしいと思います。

そもそもこの万座しぜん情報館は、上信越高原国立公園の中心部に位置するビジターセンターの役割を担う存在です。万座を訪れた方たちに向け、地域の自然の面白さや大切さを伝えていくことが使命なんです。館内にはカエルやサンショウウオが数種類。参加体験型の展示を増やしています。中でも特に人気なのが、モリアオガエルのオタマジャクシが誕生する瞬間を体験できる展示イベントです。感動的な一瞬を逃すまいと、夢中になって写真に撮られる方もたくさんいるんですよ。

また、植物も見逃せません。万座は1300m~1800mと標高差があり、高山植物の女王と呼ばれるコマクサや低い山に咲くスミレやツツジも見られるんですね。両方の植物と出会えるなかなか珍しい場所です。展示室では、苦心して作った色とりどりのドライフラワーも展示中。50種類もの花の「形」が、虫を寄せる戦略によって大きく二つのタイプに分けられることに気づくと、目からウロコだと思います。「作り方を教えて」と聞かれることもよくありますよ。



万座の自然を次の世代へ

館長としての任期は3年だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大のためにやり残したことも多く、もう1年延長することにしたんです。残された時間で、野鳥の鳴き声を録音したCDづくりや、自然ガイドブックづくりなど、万座の自然を「形」に残していく試みにどんどんチャレンジしていきたいと思っています。そうすることで、次の館長により良い形でバトンを渡せるかなと。

実は今、館長になりたいと手を挙げてくれる方もたくさんいて、とてもありがたいのですが、みんなまだ小中学生なんです(笑)。ですからこの万座しぜん情報館が、無理のないように次の世代、また次の世代へと受け継がれていくように、運営しやすいしくみを今のうちに整えておきたいですね。

「ここには夢がある」そう言ってくださるお客さまもいました。これからもずっとそう思ってもらえるような、夢のある施設を作っていきたいと思います。春夏秋冬どの季節でも、それぞれの神秘的な魅力が味わえる万座。温泉を目当てに訪れる方々だけでなく、自然を満喫したいというお客さまがもっと増えることが大きな目標ですね。


万座しぜん情報館(Manza Nature Center)
住所 : 群馬県吾妻郡嬬恋村大字干俣2401
TEL : 0279-97-4000
公式ウェブサイトはこちら

[ 嬬恋村を訪れるご夫婦にメッセージ ]

新しいご夫婦も熟年のご夫婦も、万座の自然に癒され、混浴で語らい、美味しいものを共に食べ、愛妻の鐘をついて、皆さん若返って帰られます。そんなお姿を見送るのは楽しいものです。しぜん情報館では、できるだけホールに出てお客様とふれあうことを心がけていますので、ぜひお声がけ下さい。

石塚 徹さん

妻旅サポーター08 : 石塚 徹さん toru ishizuka

神奈川県出身。博士(理学)。専門は動物社会学/進化生態学。大学院修了後、高校教諭、自然ガイド、研究所に勤務。働きながら鳥類の社会行動の進化について研究を深めてきた。著書『歌う鳥のキモチ』(山と渓谷社)は雑学出版賞を授賞しベストセラーに。2018年、万座しぜん情報館の館長に着任。博物館学芸員の資格を活かした特色ある参加体験型展示やガイドツアーなど、新しいビジターセンターの姿を模索し実践している。